「引っ越し蕎麦」という言葉を聞いて、どんなイメージが浮かびますか?
「引っ越し作業を終えて、新居で一杯すする」という場面が思い浮かぶのではないでしょうか。
でも実はこの習慣には、意外と知られていない歴史があるんです。
この記事では、江戸時代から続いてきた引っ越し蕎麦の本当の姿をお伝えします。
また、なぜ「引っ越し蕎麦を自分で食べる」という今の解釈が生まれたのか、その理由にも迫っていきます。
引っ越し蕎麦の基礎知識
引っ越し蕎麦は、昔からある日本の伝統的な習慣です。
「新しい土地に引っ越してきた際、ご近所の方々に蕎麦を配る」というのが本来の形です。
今はタオルやお菓子、洗剤など、実用的なものを配るのが主流になっていますが、昔は蕎麦が挨拶の品の定番でした。
また面白いことに、昔の引っ越し蕎麦は乾麺ではありませんでした。
蕎麦屋さんで作ってもらった出来立ての温かい蕎麦を、ご近所さんへ配って回ったそうです。
お昼頃や午後のおやつの時間を狙って配られたそうですよ。
ではそもそも、なぜ蕎麦が配られるようになったのでしょうか?
その歴史から見ていきましょう。
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引っ越し蕎麦誕生物語
引っ越し蕎麦の習慣は、江戸時代中期に広まりました。
その当時、蕎麦は江戸の市民に人気の食べ物でした。
これは、江戸の土地が小麦より蕎麦粉の栽培に適していたことが関係しています。
たくさん蕎麦粉が採れるので、蕎麦を食べる文化が根付いていったんですね。
また、早く茹で上がる蕎麦は、江戸っ子のせっかちな気質にも合っていました。
江戸時代の蕎麦は屋台で手軽に手に入り、今の値段で言えば300円ほどで食べられたそうです。
なので、蕎麦は「米」と同じくらい、日常の主食として親しまれていました。
そのため、蕎麦は受け取っても困らない、親しみやすい食べ物だったのです。
さらに引っ越し蕎麦には、江戸っ子ならではの粋な遊び心も込められています。
「蕎麦」と「傍(そば)」をかけて、「お傍に参りました」という意味が込められているのです。
また、細長い麺の形になぞらえて、「細く長いお付き合いをお願いします」という意味も込められています。
こうして引っ越し蕎麦は、新しいご近所さんへのご挨拶に積極的に使われました。
この江戸時代から始まった引っ越し蕎麦の習慣は、東京を中心にやがて全国へと広まっていきます。
変わりゆく引っ越し蕎麦の形
先ほどお伝えした通り、引っ越し蕎麦は伝統的に言えば、引っ越し先のご近所さんへ配るものです。
でも現代では、「引っ越した本人が新居で蕎麦を食べる」という習慣に変わってきています。
SNSでも「新居で引っ越し蕎麦を食べた」という投稿をときどき見かけます。
もともとはご近隣さんへの挨拶のためのものなので、自分で食べるのは間違いと言えば間違いなのかもしれません。
でも、文化や習慣は時代とともに変わるものです。
なので今の時代に、新居で引っ越し蕎麦を食べたとしても、何ら問題はありません。
引っ越し作業の疲れを癒やすため、天ぷらをのせた美味しい蕎麦を自分へのご褒美にするのもアリじゃないでしょうか。
それか、家族で集まって一緒に蕎麦を食べることで、新しい家庭生活の幕開けを祝うのもステキですよね。
引っ越しの挨拶の今
蕎麦を近所に配るという昔ながらの引っ越しの挨拶は、今ではめっきり見かけなくなりました。
それどころか、引っ越しの挨拶そのものを省く人も増えています。
この変化の背景には、私たちの暮らしの移り変わりが深く関わっているようです。
まず、引っ越し蕎麦の伝統がすたれ始めたのは大正時代でした。
新しい時代の波とともに、人々は実用的な品を好むようになります。
そのため、タオルや石鹸といった日用品が挨拶の定番として選ばれるようになっていきました。
その流れは昭和、平成を経て令和の現代へと続きます。
今は賃貸住宅が増え、暮らし方も多様になってきています。
核家族や単身世帯、女性の一人暮らしも当たり前になりました。
そんな中で、安全性やプライバシーを重視する考えから、引っ越しの挨拶そのものを控える傾向が出てきたのです。
ただ、地域との絆を大切にしたい場合は、今でも引っ越しのご挨拶は欠かせない習慣です。
ちなみに最近は、ご挨拶の品にこんなものが選ばれています。
・洗剤
・ハンドソープ
・クッキーなどのお菓子
・お茶やコーヒー
また、「引っ越しギフトセット」なんかも売られているみたいですよ。
なんと、「蕎麦」の引っ越しギフトもあるのだとか。
もし今後引っ越しのご予定があって、ご近所さんへのご挨拶を考えているのでしたら、ぜひ参考にしてみてくださいね。
また最近では、「挨拶を書いたお手紙をポストに入れる」という、直接会わない方法も広まってきています。
これも、現代の生活様式に寄り添った新しい形といえるでしょう。
まとめ|引っ越し蕎麦の昔と今
かつては、「引っ越し蕎麦を配る」という習慣が欠かせませんでした。
でも今では、引っ越した本人が新居で蕎麦を味わうことが増えました。
(または「引っ越しても何もしない。蕎麦も食べない」という人もいるでしょう)
たとえ引っ越しのご挨拶をする場合でも、今は日用品を配るのが普通です。
なので、配る必要のなくなった蕎麦を自分で食べるようになったのは、ある意味自然な流れかもしれません。
「伝統」は時代とともに変わっていきます。
私たちの価値観や生活の移り変わりに合わせて、引っ越し蕎麦の形も、これからもっと変わっていくのかもしれません。